プラトンの対話篇

 「プラトンの対話篇」を読んだことはあるだろうか。この本はソクラテスが様々な人との対話を通して論を展開していく様子を著したもので、基礎的教養として読んでおいたほうがいい。 後々まで役に立つのはその中でも「国家篇」であり、かなり長編だ。
 一度読んでおいたほうがいい理由は、この本が哲学の基本であり、論の展開(弁証法)の基となっているからだ。
 ただし、これを読んでいくと、ソクラテスの論理展開は厳密には相当変なものであることがわかる。だから全部読む必要はない。実はくだらない部分も多いのだ。それでも読む価値がある、というのは至る所に汲み取るべきことがあるからだ。政治論、国家論、正義論などはいろんな面で現在の議論の骨格になるものである。
 こうした古典が重要なのはその分野でどのようなことが過去に議論され積み重なってきたかを示している点にある。どのような議論が積み重なっているのかがわからないと議論ができない。

 さて、そもそも僕(立花)と君たち(受講者)との関係とはどんなものなのだろうか。
 「プラトンの対話篇」の中の弟子たちとの議論の中でソクラテスは「自分が何者であるか」を論じ、こう述べている。

「自分は産婆である。哲学とはその産婆術のことである」
 子どもを産むのは弟子たち自身で、自分は手伝うだけである。孕んで陣痛を起こして出産するのは弟子たちのすることであり、自分のすることではない。ただ、その孕んだものが、本物なのか想像妊娠であるか、いいものであるか悪いものであるかを見きわめ流産させるかどうかを判断したり、陣痛の時出産を手助けすることが教師の役割だ。
 もう一つ、孕む前に結婚せねばならない。良男良女が結びつくように取り計らうのも実は産婆の役割だ。弟子のもっている考えにいかなる知的プロセスを与えてやればうまく展開できるのか、を示してやるのである。
 この前のコンパでは「(このゼミの)勝算があるのか」という質問があったが、実際にゼミをやるのは君たちである。また、僕の取材の手伝いを君たちにさせているわけでもない。いいアウトプット(お産)ができなくて恥じるのは君たちだ。このゼミの全てのプロジェクトにおいて、そのプロジェクトにかかわったゼミ生の実名が出る。名前が出ると、恥をかかないようにきちんとやろうという心理が働く。

 もう一つ、このゼミでは代々(と、いってもまだ始まって1年しか経っていないが)全ての仕事が代々ボランティアですすんできたので、ボランティアがいないとすすまない。誰か仕事をして欲しいと言った時に、日本的文化からか、挙手しない習慣があるようだが、その姿勢はあらためてほしい。

サブサンプション・アーキテクチャ

前回の復習をまずしよう。サブサンプション・アーキテクチャがショックを与えたのは、これまでのロボットとまったく異なった考え方のもとで作ったロボットが成功を収めたからである。
 それでは、今までのロボットはどのようなものであろうか?
 実はロボット研究とは人間研究なのである。ロボットに何かをさせることは人間がそもそもどういう仕掛けでその行動をやっているかを研究することにつながる。そうしたコンセプトでロボットの研究をしている人は数多い。
 従来からあるロボットは、感覚入力系(センサー)、中枢系(人工知能的プロセス)、運動出力系、知識系(データベース)からなりたっている。
 こうした構成でなりたっている移動ロボットが障害物のある空間をどのように移動しているかというと、まず完全環境マップなるものを事前に作り、それを知識としてロボットに最初から持たせておく。ロボットは自分のいる環境を視覚センサーで「見る」。そこで視覚情報として入ってきたものが自分の持っているマップのどこに一致しているかを調べて(マッチング)、どこに自分がいるかを確認する(位置認識)。その後にどのように動くかを計算して(プラニング)、移動する。
 本来なら視覚認識からやらなくてはならないが、それは大変難しい。人間は3次元的に視覚認識する。私たちが動くとき勝手にやっていることをロボットにやらせるためには、人間脳でその時起こっていることをロボットにやらせなくてはならない。ロボットの研究は人間の脳のどこを研究しなくてはならないかということを示唆している。

文責:鈴木健太郎
ロボット三原則

 人とロボットが良い関係を築くための「ロボット三原則」というものを、SF作家のアイザック=アシモフが提唱したが、この三原則もサブサンプションアーキテクチャを使えば守らせることができる。もっとも、ブルックスのロボットは三原則ではなく、 レベル0から7の8原則によって動いている。
 サブサンプションアーキテクチャーは、無駄が多く冗長ではあるが、分散強調型であるため安定性と頑健性に優れ、システムのどこかに異常が起きても全体としては正常に機能できる。また、拡張性にも優れており、新しい機能をどんどん付け加えることができる。これらのサブサンプションアーキテクチャの特徴は、ラングトンの提唱した人工生命の特徴と合致する。それは、お互いに考えのやりとりをして、刺激しあったからだそうである。
 サブサンプションアーキテクチャーの考え方は、人一個体についてだけでなく、同じく分散強調型のシステムである社会についても適用できる。

文責:原野一政
分散・協調

 ロボットの研究は分散・協調というアイデアにもとづいてなされている。分散・協調とは、多重なセンサーひとつひとつがそれぞれ入力された情報をある単純なルールにより判断して出力し、かつセンサー同士がローカルな情報のやりとりをするということである。これは基礎的な生命の特徴であると考えられている。
 また現在では、分散・協調をロボット内部で行わせるのみならずロボット同士で行わせるとういう研究が盛んである。人間社会も分散・協調で成立している。つまり、このようなロボット研究は、人間研究にとどまらず人間社会の研究にもなるのである。
 インターネットのネットワークの基本も、ローカルな情報のやりとりである。このシステムは従来のメディアを考えれば画期的なものであり、この意味において、インターネットは世界を変えるものだといえる。

文責:小宮山亮磨