古典的な帝国主義は終りつつある。これから先新しい種類の帝国主義が訪れるのならいかなるものなのか? 全く帝国主義とは関係のない主義が生まれるのだろうか? それを知るためにも歴史を知ることが大切だ。主義が決まっていく過程において主義とは一見関係がないようにみえる別のものが大きな影響を与える時がある。経済利害も絡んでいく。その点中国・香港経済は面白い。香港は今バブル期にありその債券を握っているのは日本の銀行である。また、中国華僑経済圏は日本の経済圏でもある。ここで日本にとって中国経済がどれだけの位置を占めるものなのか、新聞を通じて確かめていく。

香港特別行政区(日本経済新聞7月1日刊)


一国二制度の取り決めの下、西側諸国と同じ三権分立の仕組みを維持。最高裁も新しく香港に設けられる。しかし、英植民地下の香港総督と同様、行政長官の権限が強い。
行政:内閣に相当。15人からなる行政会議が長官の諮問機関となる。15人はほぼ全員香港政庁時代の留任。
立法:中国政府主導。今年1月に臨時立法会が成立。98年5月に正式な立法会になる予定。
司法:独立が続く。ただ、中国政府の管轄下におかれる外交・国防に関しては、中国の全国人民代表大会の常務委員会が担う。
しかしこのような機能が十分かどうかは疑問視されている。議員立法は行政長官の同意が必要で容易ではない。立法会議作成の法案を追認する作業が続く。

日本電機大手企業の中国進出について(同上)


開発開放路線定着してきた中国は家電など半導体の需要先として高い成長が見込まれている。日本電子機械工業会では、中国の半導体市場は2000年に向けて年平均27%成長すると予想している。ハイテク振興をめざす中国政府の政策にも相乗効果を期待している。各企業は日米欧アジアの四極国際分業体制に中国を加える戦略を明らかにし始めた。中国には豊富な労働力、高い国内市場の成長力等有利な点が多い。微細加工技術は先進国並で後発故の強みもある。インフラも「十分事前に調査すれば可能」という。人手不足の問題もない。増値税(付加価値税の一種)還付額減少などマイナス方向の変化も懸念されるが、今のうちに進出をという見方が多くなっている。

大陸の窓口、香港(同上)


日本のメーカーや商社は復帰後も香港を中国市場開拓の橋頭堡として積極的に活用していく構えだ。香港日本人商工会議所によると5年後の香港の事業環境について90%が「有望」または「非常に有望」と回答し、復帰を冷静に受け止め、中国ビジネスを強化するチャンスとして生かそうとしている。新たな活用法として目立つのは香港華人と組んで中国市場を開拓する動きだ。香港華人とのパイプを生かし、これまで馴染みの薄かった内陸部に積極的にアプローチしようとしている。香港に拠点を置く中国系企業との連携を模索する動きも深まりそうだ。中国と香港の市場の一体化を前提に「大中国」の中で分業体制を築く動きも出始めた。香港を「大中国」の金融拠点として位置づけるのは上海が国際金融センターとして自立するのに時間がかかるうえ、中国国内での調達金利が割高なためだ。深専、珠海、広州など珠江デルタ地帯が一体化して誕生する「大香港経済圏」を、香港を足場に開拓する動きも広がってきた。 (注)香港に対する国別累計投資額は首位:日本(186億香港ドル)2位:アメリカ(133億香港ドル)以下、中国(33億香港ドル)、イギリス(23億香港ドル)と続く。

超地域主義の時代へ(日本経済新聞96年12月2日)


 冷戦後の世界経済は予想を上回る速さで変容した。変化のテンポを速め、あるいはその行方を大きく変えるのは、情報化の進展だろう。その中ではっきりしているのはアジア太平洋地域の経済発展である。それは20世紀の「西洋と東洋」という世界の基本概念をも変える。日本を除くアジアのGDP(国内総生産)の世界におけるシェアは1995年には9.4%だが2020年には25.8%に達するという分析も出ている。アジア太平洋地域ともなると2020年にGDPシェアは6割を超す。これは世界の中心が大西洋から太平洋に移ることを示す。

 しかし、アジアの今の成長鈍化は循環的なものではなく、インフラの未整備にとどまらないもっと大きな構造要因があるともいわれる。資本と労働の投入に頼ったアジアの成長は、技術進歩というもう一つの成長要因の壁にぶつかるという指摘も出ている。

 確かに技術先進国に比べアジアの技術力は見劣りする。日本企業などからの直接投資が発展を支えるが、技術移転はなかなか進まない。しかし、応用技術や生産技術、経営管理などの分野では技術進歩に可能性はある。それには人材教育が必須である。

 アジアの発展は外延的な拡大を続けるのが特徴だ。NIES,ASEAN,中国、インド、ベトナム。所得水準が高まるにつれ巨大な市場が魅力となる。多くのアジアの国は「開発独裁」型の政府主導型経済からの転換を迫られるだろう。

 21世紀前半にもなれば超地域主義の傾向ははっきりしてくるだろう。APEC(アジア太平洋経済協力会議)は途上国を含めた貿易・投資の自由化を達成しているだろう。APECはルール作りを主導する場となる。EU(欧州連合)は旧東欧を加えて巨大な市場を形成する。NAFTA(北米自由貿易協定)は南米に拡大し、情報資本主義はアメリカを舞台に進化する。アジア太平洋地域をめぐる競争と協調の動きは激しくなる。

 超地域主義はブロック主義ではない。その地域の経済を活性化し、多角的貿易体制を支える。超地域主義の担い手は多国籍企業と地方自治体だ。国境を越えた企業や自治体の連携はネーションステート(国家経済)の存在を希薄にし、経済摩擦は政治問題化しない。グローバル経済の下で経済システムの融合が進む。

 日本は透明な市場経済システムを構築し世界に規範を示す立場となるだろう。発展の核となるアジア太平洋諸国にとって、成功の負の側面である飢餓、貧困、難民、難病といった課題は重い責任となる。

真珠くわえ、「巨竜」昇るか―屈辱の過去をバネに―(毎日新聞97年7月1日)


 香港は明治維新の原動力となった。その香港が30日終焉を迎えた。アヘンが原因で老帝国清は新興王国イギリスにひざまずき、香港は割譲された。香港割譲は海防論議を呼び起こし、討幕が進んだ。アヘン戦争前、中国は世界の国民総生産の3分の1を占めていた。40年後にはイギリス、ドイツ、ロシア、フランスに抜かれ、日清戦争後日本にも抜かれた。香港ショックが日本を列強に押し上げるバネとなった。官僚の腐敗と軍の弱体化が帝国衰退の原因となった。2度の大戦、国共内戦、文化大革命を経て中国の開放・改革路線は軌道に乗り出した。総生産はこの10数年2桁成長を続けている。このような状況下で、中国の200分の1の人口で2割強の総生産をあげる香港は中国に戻る。中国への海外からの直接投資は香港からが55%を占め、香港企業の75%が中国本土に生産拠点を持つ。中国は香港に資本と技術を求め、香港は中国に労働力と原材料、市場を求める。両者はすでに不可分とみる人もいる。逆に中国は香港での民主化要求組織の存続を認めず、市場機能が低下して香港は死滅するとみる人もいる。1国2制度が実現すれば中台統一への道も開ける。統一が実現されれば、統一中国の総生産は10数年後には日本やアメリカを抜いて世界トップになると、CIAは予測する。中国は香港回復を機に世界の中心となるチャンスを手に入れた。これを生かすも殺すも中国次第である。

 いかに香港経済が日本を始めとするアジア経済に影響を与えるのか? 与えると読まれているのか? このようなことを新聞を通じて確かめてきた。今日、日米経済は世界の注目を浴びている。いざ日本が香港(中国の共産圏に一応これからは所属)かアメリカかの選択をせまられる時が来たら、日本の決定は世界経済に影響を及ぼし得るのか? 米国に対する日本の影響の強さをまた新聞記事を通じて確かめる。

米国支える日本マネー(東京新聞97年6月25日)


  ジャパンマネーの米国債投資はレーガン政権の高金利政策を契機に拡大した。政府が大半を米国債の形で保有している外貨準備高は2100億ドルにのぼる。金などを除いた米国債保有額は発行残高のうち6%弱を占める。日本の米国債投資額は世界からアメリカへの全投資額の17%に相当する。日本政府が米国債売却にでれば、為替安定の日米協力にひびが入る。

米債務27%増(毎日新聞97年7月1日)


 米商務省が7月30日に発表したところ、アメリカの純債務残高が前年比27%増の8710億ドルとなった。アメリカは11年連続で世界最大の純債務国。純債務残高とは外国が米国債や米国の社債、株式、不動産などへ投資している額から、米国の対外投資額を差し引いたもの。米国債による対外債務額は純債務の中で最大となっている。外国企業が米企業の10%以上の株式を取得するなどの対米直接投資はイギリス、日本、スイス、ドイツ、カナダと続く。

橋本首相「米国債売却の選択肢もあった。」(読売新聞97年6月24日)


 23日の講演で橋本龍太郎首相が、外貨準備で保有している米財務省証券(短期の米国債)について「売却する誘惑にかられたことがある」と述べた。(担当者註:外貨準備高とは国が輸入代金の決済や借金などの決済などの対外支払いに充てる公的準備資産を指す。)この発言は米政府に(担当者註:基軸通貨国としての責任を自覚し、)為替安定で協力するよう求めることに狙いがあったみられる。しかし、売却の可能性の示唆と受け取られ、ニューヨーク株式市場は急落した。ダウ工業株平均はブラックマンデーに次ぐ下げ幅となった。米国債も売られ、ニューヨーク外国為替市場ではドルが売られた。

首相「本音」おもわずポロリ(読売新聞97年6月25日)


 最近の円高ドル安傾向に対抗し、日本がドル買い介入などを進めたため、外貨準備高が積み上がっている。外貨準備高は外貨建て資産や(ほとんどが米国債で運用されている)金で保有している。23日の橋本首相の発言は日本が米国債を売却すると解釈されて波紋を広げた。橋本首相の米国債売却の誘惑にかられたのは「日米自動車交渉」と「円高局面」がケースとして挙げられる。というのも、超円高の容認を絡め日本の市場開放を迫ったアメリカに、日本政府もひるまず、日米通商摩擦が激化したからだ。日本は内需拡大が進まない一方で対外黒字も減らすことができないでいる。今回、アメリカが再び円高圧力を強めることがないよう首相が牽制したとみられるのもこのような事情があってのことだ。しかし実状は、米経済が失速すると世界経済にも深刻な影響をもたらす。橋本首相が本当に売却を視野に入れているとは考えにくい。

米国債を日本が売ったらどうなるの?(毎日新聞97年6月25日)


 日本の政府、投資家による米国債購入は経常黒字国・日本がアメリカの赤字の穴埋めをしていることを意味する。その米国債を日本が売った場合の影響を考えてみる。米国債の価格は急落(長期金利は急上昇)する。それは、米国の株価暴落、日本国内の株価の下落、日本国内の景気低迷を招く恐れがある。米国債売却は円を買うことにつながり、円高が進む。このことは自動車、電機など輸出メーカーの経営を直撃する。これらのメーカーは景気回復の先導役を果してきたため、国内経済にとっては深刻な打撃となる。元々円高になれば米国債の円に換算した価格は目減りする。ただでも円高の歴史の中、米国債の資産価値は下がっていたがその見直しもできないというのが日米関係の実状だ。

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